電子書籍の議論も、最近では落着きを見せているようですね。紙の本は滅びない、電子書籍と共存していくだろう。そういった見解があちこちで見られるようになりました。紙の本は消えてしまうというのはいささか誇大妄想的な発想だと、それが電子書籍にたいする私たちの共通認識になりつつあるように感じます。
私は、おそらくその過信と油断が、紙の本を滅ぼす要因になるのではないかと思っています。
電子化、デジタル化の波は電子書籍以外にもありました。その中で共存に成功したものはどれだけあるのでしょうか? レンタルビデオ店のVHSテープは、DVDに切り替わりました。写真は、フィルムからデジカメに置き換わろうとしています。ワープロはパソコンに変わりました。ブラウン管テレビは液晶テレビに切り替わり、店頭で売られることはなくなります。
もちろん地デジのように、切り替わりに苦戦する可能性もありますが、この携帯電話を買い替えるだけのこのサービスは、回線容量やサービスの品質の維持の問題を無視してしまえば、わずか機種変更にかかる三〇分足らずの時間で容易に行われてしまうことに気づかなくてはなりません。馬車が車に変わったときのように、旧世代の需要すらを完全に駆逐してしまう可能性をつねに念頭に置いておかなくてはならないと思います。
なぜ思い込みが始まったのか
ではそもそもなぜ、紙は滅びないという考えが生まれてしまったのでしょうか? それは日本で電子書籍市場が失敗を繰り返してきたからに他なりません。換言するならば紙の書籍が、いくつかの要因でこれまでの電子書籍を上回り、電子書籍化の流れが食い止めてきた自信があるからです。
その根拠はもちろんクオリティだけではありません。市場の規模や、販売網や広告力としての書店の価値など、書籍が持っている力は、今までの電子書籍では太刀打ちできませんでした。
しかし、今、スマートフォンによって、電子書籍のクオリティは上がり、アプリ化によって、消費者との距離が縮まり、SPモードによる電子書籍決済が可能になりました。市場においても、それは有望視されており、参考までに、2008年度のiモードの情報量の年間売上は2000億円に達しておりまして、つまり新たな市場としての可能性だけではなく、メインカルチャーになりうるだけの可能性を電子書籍が秘めていることを示唆しております。
そして、そのパラダイムシフトは一瞬で起こると私は想像しています。今は凪のように穏やかですが、暴風域のように電子書籍化へ流れに逆転し、これまでの紙重視の考えは捨てられ電子書籍化へと切り替わるのではないかと。
なぜならば、紙の書籍としてのクオリティは、売上に影響することはないからです。出版業界でもっとも売上を伸ばしているのは漫画や雑誌です。これらは品質ではなく、コスト競争において市民権を勝ち得てきたコンテンツです。装丁、組版、写植、紙質、インクの品質など言われてきましたが、それらが売り上げに及ぼす効果は微々たるものだと言わざるを得ません。
電子書籍は加速しながらシェアを増やしていくはずです。そして加速しながら値段を徐々に下げていくことが予想されます。その臨界点を超えたとき、紙の書籍のカタストロフィが始まると考えております。これらは最悪のケースでも極端なケースでも何でもなく、近い将来に起こりうる未来として考えておくべきことだと考えます。
電子書籍化によって打撃をうけるのは?
電子書籍化によって打撃を受けるのは、書店ならびに取次、そして、印刷所です。巨大なコンテンツホルダーである大手出版社は蔵書の電子書籍化に動くことが予想され、電子書籍中心に出版業界が動くことが予想されます。
今は紙をメインに出版するというのが普通ですが、電子書籍と書籍の地位が逆転することによって、紙では本が作られず、電子書籍のみで発行されるケースが生まれてしまうでしょう。
私は漫画や雑誌、図表などの画像を中心とした画集などの本は書店で生き残ると考えています。しかしそれ以外の小説や一般書、参考書、教科書、週刊誌などテキストコンテンツの系は電子書籍に移行していくと考えています。
とくに小説は、書店で長い間苦戦を強いられてきましたから、電子書籍化によって見違えるような効果を発揮するのではないかと考えています。著名人やアルファブロガーによる面白いという一声によって、一瞬で広まる伝播力を考えると最も可能性を秘めたものは小説ジャンルということになるでしょう。出版社は在庫や返本を気にする必要もありません。また参考書などは一定の需要がありますから、電子書籍産業の屋台骨となることが想像されます。
出版社は上記のように生き残りの活路を見出せますが、しかし書店や印刷所は業界再編を余儀なくされるでしょう。小さな書店は閉店し大都市中心の大規模書店の流れは加速し、書店数は全体として大幅に数を減らすことが考えられます。もちろん書店は、コンテンツの量で電子書籍に優位性を保てる間は、また中身を視認できるという品質保障体制が維持される間は、書店は電子書籍化の流れを食い止めることができるでしょう。
おそらく書店や印刷所はようやくあせり始め本腰を入れ始めるのです。とるべき第一の方法は、紙の書籍の需要を喚起することです。
手触りや、保存性、低コスト(意外に知られていませんが、書籍は一〇分の一程度のコストで作ることができます)、収益性、他には書店の広告力です。出版社は電子書籍を売るために、出版社は、棚に電子書籍リストを並べた冊子を並べたらいいのではと考えるでしょう。書店がどのように応じるのかはわかりませんが、たとえば売上のほとんどを書店側に回すことができるのであれば、(たとえば今は書店の取り分は約三割ですが、出版社側の売り上げをゼロにして、六割の配分にすることができれば、需要と供給のバランスが保たれることになります)やがて消費者はソファーで雑誌化された電子書籍リストを眺めながら、スマートフォンでダウンロードする。そんな光景が一般的に見られるようになると考えられます。もちろん新聞も有効活用されます。テレビ欄のようにおすすめの電子書籍アプリの紹介記事が登場してくるでしょうし、電子書籍はプロモーション力が問われるようになると考えられます。
紙の書籍が生き残る方法
もちろん書籍の需要は全くなくなるわけではありません。比較的居住スペースと資産に余裕のある富裕層を対象にして生き残ると考えられます。豪華版など、より装飾をあしらった本が販売され、高額化されます。また図書館需要はなくなりませんから、より重く耐久性を重視した本が発行されることも考えられます。また電子書籍によって売れたものが書籍化するという流れになり、書店の流行の発信地としての機能は鈍化するかもしれません。面白いもの、品質が保証されたもの、値段は多少高くてもそれでも買いたいという層に紙としての本として流通していくと考えられるのです。しかし意外に活路は少ないようです。
共存と棲み分け
また電子書籍化は、書店以外の流通を探ることになるはずです。書店がそこまで電子書籍に協力的になるとは考えられないからです。電子書籍産業は、Eコマースの一部でありいわば通販のようなものであるという認識を持つ必要があると考えます。カタログ販売、テレビショッピングなどの手法でプロモーションを行ったり、いち早くそのプロモーション法を開拓した出版社が、売上を伸ばしていきます。漫画雑誌は、言わば単行本を買うためのカタログのようなものです。そのようなカタログ化(コンテンツのサムネイル化が)いたるところで行われるようになるでしょう。
電子書籍が真価を発揮するとき
そうすると、インターネットと変わらないと考えるかもしれません。しかし電子書籍の魅力はパッケージ化です。著者、分野などでカテゴリされた情報を、端末内でアーカイブすることが出来ることなのです。分類作業が生じたときに、人はコレクションとしての価値を見出すのです。一年で一〇冊購入しても、一〇年で一〇〇冊を保有することができる。もし一年で一〇〇冊読むような人ならば、一〇〇〇冊のデータを持つことになります。電子書籍はしおりやマーカー機能によって使い込まれ、情報という概念から、徐々にその人にあった知恵に変わります。Googleの検索機能によってWEBライフが一変したように、生活レベルであなたの生活が、拡大するのです。インターネットや実地調査で拡散された情報をまとめ、信頼できる情報として提供すること、それが電子書籍の担う役割です。
たとえば様々なシチュエーションがイラスト付き外国語の参考書がで発行されれば、瞬時に検索しながら知らない言語を話す方と会話することができます。
情報は整理され、有効に使えるもの、たとえば空港のカウンターの場所、電車の到着時刻などは電子書籍に切り替わるのではないかと想像されます。携帯の電波問題を考えれば、スマートフォンによって回線容量問題が懸念されますが、無線を張り巡らせて膨大なデータのやり取りをするよりは、情報を一度自宅などでダウンロードさせて電子書籍によって整頓されたデータ引っ張ってきた方が迅速に処理が行われるのです。
電子書籍の未来予想図
電子書籍は二種類に大別されるようになります。一つは買い切り方のコンテンツ系商品。小説、教養書籍、経済書などがそれにあたります。もう一つは、情報系商品、継続課金を前提としたもの、年毎にバージョンアップを繰り返して需要を拡大する方式がとられるのではないかと想像しています。たとえば辞書、参考書、また雑誌などがそれにあたります。
コンテンツ系は新鮮さが命です。情報系も新鮮さが命です。そのカテゴリで首位を獲得するために、また首位を維持するための熾烈な競争が生まれるでしょう。情報(価値観の)のカタストロフィは随時起こるでしょうが、より内密になっていく傾向へと進むはずです。今後どのような新たな電子書籍化が誕生するのかわかりませんが、まったく新しい電子書籍が誕生するのではないか、それを考えるのも楽しみなことの一つと言えるのではないでしょうか。
雑感・まとめ
※注 私は紙の書籍が滅びていいと思っているわけではありません。ただもし出版業界が有効な手立てをとる事無しに、紙の優位性を叫ぶのは危険であり、首を絞めるだけでないかと考え今回の記事を書かせていただきました。若干ですが、誇張な表現や私の妄想が多分に含まれた記事となっております。私は歴史を振り返る限り、過信や盲信こそが、滅びを招く大きな要因だと考えています。現状しか見ないのではなく、情報収集をつねに行い、未来をイメージすることが、生き残る活路ではないでしょうか。出版社が紙や書店を守らなければならない道理はどこにもないのです。(もちろん義理や慣習はあるのかもしれません)